特許審査で最も多くの出願が引っかかるといわれるのが「進歩性」のハードルです。既存技術と違う(新規性がある)だけでは足りず、「その分野の専門家でも容易には思いつかない」ことまで求められます。AI関連発明では、この進歩性をどう示すかが特許戦略の核心になります。
📖 ひと言でいうと
進歩性とは、特許を受けるための要件の1つで、発明が既存の技術や知識から容易に導き出せないものであることを求めるものです。日本法の一般的な理解では、その技術分野の通常の知識を持つ者(当業者)が、出願時の既存技術に基づいて容易に発明できたものには特許が認められない、と整理されています。
例えるなら、料理コンテストの審査に似ています。「カレーにチーズをのせる」程度の工夫は誰でも思いつくので入賞できませんが、プロの料理人でも思いつかない意外な調理法で新しいおいしさを実現したら入賞できる、というイメージです。「その道のプロが容易に思いつくか」が基準になる点がポイントです。
🖼 1枚でわかる進歩性
📘 公式テキストの説明
「進歩性」は、発明が既存の技術や知識から容易に導き出せない新規性を持つことを求める要件である。AI技術の進展に伴い、AIを活用した発明の進歩性の判断が注目されている。特に、AI関連発明では、従来の技術と比較してどの程度の技術的進展があるかを明確に示すことが求められる。例えば、特許庁が公表した事例では、大規模言語モデルに入力するプロンプト用文章の生成方法において、関連するキーワードを抽出し、制限文字数内で付加文章を生成する手法が進歩性を有すると判断された。これは、従来技術にはない独自の問題解決手段を提示したためである。AI関連発明の特許取得を目指す際には、既存技術との差別化を明確にし、技術的進展を具体的に説明することが重要である。また、各国の特許庁や裁判所におけるAI関連発明の進歩性判断の事例を参考にすることで、より適切な特許戦略を構築することが可能となる。
要点は2つです。第一に、進歩性とは「既存の技術や知識から容易に導き出せない」ことを求める要件だという定義。第二に、AI関連発明の具体的な審査事例として、大規模言語モデル(LLM)のプロンプト用文章の生成方法——関連キーワードを抽出し、制限文字数内で付加文章を生成する手法——が、従来技術にない独自の問題解決手段を提示したとして進歩性ありと判断された例が挙げられていることです。
🔍 しっかり理解する
新規性の「先」にあるハードル
特許審査では、まず新規性(既存技術と同一でないこと)がチェックされ、それを通過しても進歩性の審査が待っています。既存技術とわずかに違うだけの発明——たとえば既知の装置の材質を一般的な代替素材に置き換えただけのもの——は、新規性はあっても、当業者が容易に思いつく設計変更として進歩性が否定されがちです。進歩性は「小さな違いに独占権を与えて技術の自由な利用を妨げない」ための関門といえます。
- 問い: 既存技術と同じではないか
- 出願前に公然と知られて/使われていないこと
- 「違いがある」ことの確認
- 問い: その違いは容易に思いつけないか
- 当業者が既存技術から容易に導けないこと
- 「違いの質」の評価
AI関連発明でどう進歩性を示すか
AI関連発明は、既存のアルゴリズムやモデルの改良・組み合わせで構成されることが多く、「その組み合わせは当業者なら容易では?」という指摘を受けやすい分野です。そのため、従来の技術と比較してどの程度の技術的進展があるかを明確に示すことが求められます。具体的には、従来技術が抱えていた課題を特定し、自分の発明がその課題をどのような独自の手段で解決するのか、それによってどんな効果が生まれるのかを、出願書類で具体的に説明することが重要になります。単に「AIを使って自動化した」というだけでは、独自の問題解決手段とは評価されにくいのが実情です。
判断のよりどころとなる審査事例
進歩性の判断は抽象的になりがちなため、特許庁はAI関連技術に関する特許審査事例を公表し、進歩性・記載要件・発明該当性についての判断ポイントを示しています。また、各国の特許庁や裁判所におけるAI関連発明の進歩性判断の事例を参考にすることで、より適切な特許戦略を構築することができます。国や機関によって判断の傾向が異なりうるため、出願先ごとの事例研究が実務では重視されています。
💡 具体例で考える
公式テキストが挙げるプロンプト生成の事例を見てみましょう。大規模言語モデルに入力するプロンプト用文章の生成方法において、関連するキーワードを抽出し、制限文字数内で付加文章を生成する手法が、特許庁の公表事例で進歩性を有すると判断されました。「LLMに文章を入力する」こと自体は誰もが行う既知の行為ですが、この手法は、キーワード抽出と文字数制限下での文章生成を組み合わせるという、従来技術にはない独自の問題解決手段を提示した点が評価されたと整理されています。この事例は、生成AIの周辺技術(プロンプトの作り方の工夫)であっても、課題と解決手段を具体的に構成すれば特許の対象になりうることを示すものとして注目されました。
⚠️ よくある誤解・紛らわしい用語
- 新規性との混同 — 新規性は「既存技術と同一でないこと」、進歩性は「既存技術から容易に導き出せないこと」です。進歩性は新規性を前提とした、さらに高いハードルです。
- 「新しければ特許になる」は誤り — 既存技術との違いがあっても、その違いが当業者にとって容易な改変であれば進歩性で拒絶されます。
- 「AIを使えば進歩性が認められる」ではない — AIの利用自体は既知の手段であり、従来技術にない独自の問題解決手段を示せるかが問われます。
- 判断基準は「一般人」ではない — 進歩性の容易・非容易は、その技術分野の通常の知識を持つ者(当業者)を基準に判断される、というのが一般的な理解です。
📝 試験でのポイント
- 定義問題では「既存の技術や知識から容易に導き出せない」というフレーズが鍵です。「公然と知られていない」(新規性の定義)とすり替えた誤答に注意しましょう。
- 新規性と進歩性の対比は最頻出の想定論点です。「同じでない=新規性/容易でない=進歩性」の対応を確実にしてください。
- LLMのプロンプト用文章の生成方法(キーワード抽出+制限文字数内での付加文章生成)が進歩性ありと判断された特許庁の公表事例は、具体例としてそのまま問われる可能性があります。
- 「従来技術にはない独自の問題解決手段の提示」という進歩性が認められた理由づけも、セットで覚えておくと事例問題に対応できます。
📚 まとめ
- 進歩性は、発明が既存の技術や知識から容易に導き出せないことを求める特許要件で、新規性の先にあるハードルです。
- 判断は、その分野の通常の知識を持つ者(当業者)にとって容易かどうかという観点で行われます。
- AI関連発明では、従来技術との差別化と技術的進展を具体的に説明することが特許取得の鍵になります。
- 特許庁のAI関連審査事例(プロンプト生成手法の事例など)や各国の判断事例が、特許戦略の重要な参考資料です。
