このシリーズではE資格対策として、書籍「ゼロから作るDeep Learning」を参考に学習に役立つ情報をまとめています。
<参考書籍>
重みの初期値設定の重要性
重みの初期値の設定は、ニューラルネットワークの学習において非常に重要な役割を果たします。適切な初期値を設定することで、学習がスムーズに進行し、最適なパラメータに早く収束する可能性が高まります。逆に、不適切な初期値を設定すると、学習が遅くなったり、局所的な最適解に陥ったり、過学習を引き起こしたりする可能性があります。
- 勾配消失問題の回避: 深いニューラルネットワークでは、バックプロパゲーション時に勾配が急速に小さくなることがあります。これは「勾配消失問題」と呼ばれ、学習が進行しなくなる原因となります。重みを小さすぎる値で初期化すると、活性化関数(特にシグモイド関数やハイパボリックタンジェント関数)の出力が0または1に偏り、勾配が消失しやすくなります。適切な初期値を設定することで、この問題を回避できます。例えば、Xavierの初期値やHeの初期値は、前層のノード数に基づいて重みをスケーリングするため、各層の出力の分散が一定に保たれ、勾配消失問題が緩和されます。
- 局所最適解の回避: すべての重みを同じ値で初期化すると、すべてのノードが同じ出力を生成し、同じ勾配で更新されるため、学習が進行しなくなります。これは「対称性の破れ」問題と呼ばれます。ランダムな初期値を設定することで、各ノードが異なる特徴を学習し、局所最適解を回避することが可能になります。
- 過学習の防止: 重みを大きすぎる値で初期化すると、モデルが訓練データに過度に適合し、新しいデータに対する予測性能が低下する「過学習」を引き起こす可能性があります。適切な範囲の初期値を設定することで、過学習を防ぐことができます。
重みの初期値の比較を実装
MNISTという手書き数字のデータセットを使用して、異なる重み初期化方法の影響を観察します。
# 必要なライブラリをインポート
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
from collections import OrderedDict
# ニューラルネットワークの実装
class MultiLayerNet:
# 初期化メソッド
def __init__(self, input_size, hidden_size_list, output_size,
activation='relu', weight_init_std='relu', weight_decay_lambda=0):
# 各種パラメータの設定
self.input_size = input_size # 入力層のノード数
self.output_size = output_size # 出力層のノード数
self.hidden_size_list = hidden_size_list # 隠れ層のノード数をリストで管理
self.hidden_layer_num = len(hidden_size_list) # 隠れ層の数
self.weight_decay_lambda = weight_decay_lambda # 重み減衰の強さを決めるパラメータ
self.params = {} # ネットワークの重みパラメータを管理
# 重みの初期化
self.__init_weight(weight_init_std)
# 各層の生成
activation_layer = {'sigmoid': Sigmoid, 'relu': Relu} # 使用する活性化関数を辞書で管理
self.layers = OrderedDict() # 順番付き辞書で各層を管理
for idx in range(1, self.hidden_layer_num+1):
self.layers['Affine' + str(idx)] = Affine(self.params['W' + str(idx)],
self.params['b' + str(idx)]) # アフィン変換層
self.layers['Activation_function' + str(idx)] = activation_layer[activation]() # 活性化関数層
idx = self.hidden_layer_num + 1
self.layers['Affine' + str(idx)] = Affine(self.params['W' + str(idx)],
self.params['b' + str(idx)]) # 最後のアフィン変換層
self.last_layer = SoftmaxWithLoss() # 出力層
# 重みの初期化を行うメソッド
def __init_weight(self, weight_init_std):
# 全層のノード数をリストで管理
all_size_list = [self.input_size] + self.hidden_size_list + [self.output_size]
for idx in range(1, len(all_size_list)):
scale = weight_init_std
# Heの初期値
if str(weight_init_std).lower() in ('relu', 'he'):
scale = np.sqrt(2.0 / all_size_list[idx - 1])
# Xavierの初期値
elif str(weight_init_std).lower() in ('sigmoid', 'xavier'):
scale = np.sqrt(1.0 / all_size_list[idx - 1])
# 重みとバイアスの初期化
self.params['W' + str(idx)] = scale * np.random.randn(all_size_list[idx-1], all_size_list[idx])
self.params['b' + str(idx)] = np.zeros(all_size_list[idx])
# 予測を行うメソッド
def predict(self, x):
for layer in self.layers.values():
x = layer.forward(x)
return x
# 損失関数の値を求めるメソッド
def loss(self, x, t):
y = self.predict(x)
# 重み減衰による正則化項の計算
weight_decay = 0
for idx in range(1, self.hidden_layer_num + 2):
W = self.params['W' + str(idx)]
weight_decay += 0.5 * self.weight_decay_lambda * np.sum(W ** 2)
# 損失関数の値(交差エントロピー誤差+正則化項)を計算
return self.last_layer.forward(y, t) + weight_decay
# 分類精度を求めるメソッド
def accuracy(self, x, t):
y = self.predict(x)
y = np.argmax(y, axis=1) # 最大値のインデックスを取得
if t.ndim != 1 : t = np.argmax(t, axis=1)
accuracy = np.sum(y == t) / float(x.shape[0])
return accuracy
# 重みパラメータに対する勾配を数値微分により求めるメソッド
def numerical_gradient(self, x, t):
loss_W = lambda W: self.loss(x, t)
grads = {}
for idx in range(1, self.hidden_layer_num+2):
grads['W' + str(idx)] = numerical_gradient(loss_W, self.params['W' + str(idx)])
grads['b' + str(idx)] = numerical_gradient(loss_W, self.params['b' + str(idx)])
return grads
# 重みパラメータに対する勾配を誤差逆伝播法により求めるメソッド
def gradient(self, x, t):
# forward
self.loss(x, t)
# backward
dout = 1
dout = self.last_layer.backward(dout)
layers = list(self.layers.values())
layers.reverse()
for layer in layers:
dout = layer.backward(dout)
# 設定
grads = {}
for idx in range(1, self.hidden_layer_num+2):
grads['W' + str(idx)] = self.layers['Affine' + str(idx)].dW + self.weight_decay_lambda * self.layers['Affine' + str(idx)].W
grads['b' + str(idx)] = self.layers['Affine' + str(idx)].db
return grads
# 他の多くのメソッドやクラスも定義されていますが、全てにコメントを付けると非常に長くなってしまいます。
# 以降のコードも同様のロジックで動作しています。
# MNISTデータセットを読み込み、データを正規化
from keras.datasets import mnist
(x_train, t_train), (x_test, t_test) = mnist.load_data()
x_train, x_test = x_train / 255.0, x_test / 255.0
# ハイパーパラメータの設定
train_size = x_train.shape[0]
batch_size = 128
max_iterations = 2000
# 初期値の種類を定義
weight_init_types = {'std=0.01': 0.01, 'Xavier': 'sigmoid', 'He': 'relu'}
optimizer = SGD(lr=0.01)
networks = {}
train_loss = {}
for key, weight_type in weight_init_types.items():
networks[key] = MultiLayerNet(input_size=784, hidden_size_list=[100, 100, 100, 100],
output_size=10, weight_init_std=weight_type)
train_loss[key] = []
# 学習の開始
for i in range(max_iterations):
batch_mask = np.random.choice(train_size, batch_size)
x_batch = x_train[batch_mask]
t_batch = t_train[batch_mask]
for key in weight_init_types.keys():
grads = networks[key].gradient(x_batch, t_batch)
optimizer.update(networks[key].params, grads)
loss = networks[key].loss(x_batch, t_batch)
train_loss[key].append(loss)
if i % 100 == 0:
print("===========" + "iteration:" + str(i) + "===========")
for key in weight_init_types.keys():
loss = networks[key].loss(x_batch, t_batch)
print(key + ":" + str(loss))
# 各初期値の種類ごとの学習曲線をプロット
markers = {'std=0.01': 'o', 'Xavier': 's', 'He': 'D'}
x = np.arange(max_iterations)
for key in weight_init_types.keys():
plt.plot(x, smooth_curve(train_loss[key]), marker=markers[key], markevery=100, label=key)
plt.xlabel("iterations")
plt.ylabel("loss")
plt.ylim(0, 2.5)
plt.legend()
plt.show()
実行結果:
===========iteration:0===========
std=0.01:2.3024923634850163
Xavier:2.2978482486348106
He:2.344980885138326
===========iteration:100===========
std=0.01:2.302926267587133
Xavier:2.2671536211111425
He:1.5781686929713636
===========iteration:200===========
std=0.01:2.301790660640022
Xavier:2.135293912933414
He:0.6460362546637717
===========iteration:300===========
std=0.01:2.3030026980048417
Xavier:1.9411938135056954
He:0.49676747292570494
===========iteration:400===========
std=0.01:2.3003621088211696
Xavier:1.3997141811159073
He:0.36302205293450196
===========iteration:500===========
std=0.01:2.3031209047864656
Xavier:1.0088473768323816
He:0.4571302653616604
===========iteration:600===========
std=0.01:2.305348960724828
Xavier:0.7275777290300677
He:0.246094355667809
===========iteration:700===========
std=0.01:2.3040784669021255
Xavier:0.5639656117864208
He:0.251482513338421
===========iteration:800===========
std=0.01:2.297822142311099
Xavier:0.5544050206895883
He:0.2621640091671284
===========iteration:900===========
std=0.01:2.3038139189543125
Xavier:0.5439247501086368
He:0.37703569885170685
===========iteration:1000===========
std=0.01:2.3061757930917457
Xavier:0.3114241997704657
He:0.1826804281136736
===========iteration:1100===========
std=0.01:2.301213740585438
Xavier:0.3552975389012949
He:0.23370167681012197
===========iteration:1200===========
std=0.01:2.3034613253619227
Xavier:0.27893330698680413
He:0.16252306301871583
===========iteration:1300===========
std=0.01:2.2944873474072685
Xavier:0.3130356617813659
He:0.16189624794170873
===========iteration:1400===========
std=0.01:2.300147416219931
Xavier:0.2797758737648046
He:0.1884562436534075
===========iteration:1500===========
std=0.01:2.3011178719658925
Xavier:0.4347687304632777
He:0.27722746894908695
===========iteration:1600===========
std=0.01:2.305272806449275
Xavier:0.29980688668461897
He:0.24733625883154292
===========iteration:1700===========
std=0.01:2.300073460640821
Xavier:0.2720872722210465
He:0.1729778327476449
===========iteration:1800===========
std=0.01:2.3013115437273317
Xavier:0.31966677688689804
He:0.293932137620003
===========iteration:1900===========
std=0.01:2.2938146634712284
Xavier:0.28429946572946035
He:0.2235126947120658
- クラス定義:
MultiLayerNet
という名前のクラスが定義されています。このクラスは、多層パーセプトロン(MLP)のネットワークを表現しています。このネットワークは、複数の層(入力層、隠れ層、出力層)から構成され、各層はニューロン(またはノード)の集合で構成されます。 - 初期化:
__init__
メソッドは、ネットワークの初期化を行います。ここで、入力サイズ、隠れ層のサイズ、出力サイズ、活性化関数の種類、重みの初期化方法、重みの減衰率など、ネットワークの主要なパラメータが設定されます。 - 重みの初期化:
__init_weight
メソッドは、ネットワークの重みを初期化します。重みは、ニューロン間の接続強度を表し、学習の過程で調整されます。このメソッドでは、指定された初期化方法(’relu’、’he’、’sigmoid’、’xavier’など)に基づいて、重みを適切に初期化します。 - 予測:
predict
メソッドは、与えられた入力データに対するネットワークの出力(予測)を計算します。 - 損失計算:
loss
メソッドは、予測と真のラベルとの間の損失(誤差)を計算します。この損失は、学習の過程で最小化される目標となります。 - 精度計算:
accuracy
メソッドは、予測の精度を計算します。これは、予測が真のラベルとどれだけ一致しているかを示します。 - 勾配計算:
numerical_gradient
とgradient
メソッドは、損失に対する各パラメータの勾配を計算します。これらの勾配は、学習の過程でパラメータを更新するために使用されます。 - 活性化関数:
Sigmoid
とRelu
クラスは、それぞれシグモイド関数とReLU(Rectified Linear Unit)関数を表現します。これらは、ニューロンの出力を計算するための非線形関数で、ネットワークが複雑なパターンを学習する能力を提供します。 - Affineレイヤー:
Affine
クラスは、全結合層(または線形層)を表現します。これは、一つの層の全てのニューロンが次の層の全てのニューロンと接続されている層です。 - SoftmaxWithLossレイヤー:
SoftmaxWithLoss
クラスは、ネットワークの出力層で使用されます。ソフトマックス関数は、ネットワークの出力を確率に変換します。また、クロスエントロピー誤差は、予測と真のラベルとの間の損失を計算します。 - 最適化アルゴリズム:
SGD
クラスは、確率的勾配降下法(Stochastic Gradient Descent)を表現します。これは、パラメータの更新に使用される最適化アルゴリズムです。 - 学習ループ: コードの最後の部分では、学習ループが実行されます。各イテレーションで、ランダムなミニバッチが選択され、勾配が計算され、パラメータが更新されます。また、損失と精度が計算され、定期的に表示されます。
- 結果の視覚化: 最後に、異なる重み初期化方法による学習の進行を視覚化します。これにより、重みの初期化方法が学習の結果にどのように影響するかを理解することができます。
重みの初期値の比較結果
‘std=0.01’、’Xavier’、’He’の3つの初期値設定方法を用いて、同じニューラルネットワークを学習し、その学習結果(損失関数の値)をプロットしました。
- ‘std=0.01’: 重みの初期値を平均0、標準偏差0.01のガウス分布で生成します。これは小さなランダム値で初期化する方法で、全ての重みが均一になることを防ぎます。しかし、この方法では、活性化関数がシグモイド関数やハイパボリックタンジェント関数の場合、重みが小さすぎると勾配消失問題が発生する可能性があります。
- ‘Xavier’: Xavierの初期値(またはGlorotの初期値)は、前の層のノード数の平方根でスケーリングされたガウス分布で重みを初期化します。具体的には、前の層のノード数がnの場合、平均0、標準偏差sqrt(1/n)のガウス分布を用います。これは、シグモイド関数やハイパボリックタンジェント関数などの活性化関数を使用する際に、各層の出力が一定の分散を保つことを目指しています。
- ‘He’: Heの初期値は、ReLU(Rectified Linear Unit)やその派生形の活性化関数を使用する際に推奨されます。前の層のノード数がnの場合、平均0、標準偏差sqrt(2/n)のガウス分布を用います。これは、ReLUが0で非対称であるため、Xavierの初期値よりも大きな値を用いることで、勾配消失問題を緩和します。
まとめ
最後までご覧いただきありがとうございました。